第56章 探しもの
光希が鍵を開け、扉を開く。
「父様、母様、只今帰りました」
挨拶をして光希が家に入る。
義勇も家に入る前に一礼をする。
「冨岡義勇と申します。お邪魔いたします」
義勇のその挨拶に驚く光希。まさか、こんなにも上等の挨拶をしてもらえるとは。
「あ、ありがとうございます」
「…………」
「へへ、俺、大切にされてるんだなぁ」
光希は嬉しそうに笑う。
義勇は何も言わずに扉を閉めて光希に付いて家に上がった。
光希は二階の書斎に上がる。
階段の途中で義勇に声をかける。
「俺、軽く書斎の掃除するんで、その辺適当に見ててもらっていいですよ。埃が凄いから気を付けてください。窓も開けてもらって構いません」
「ああ」
短く返事をした義勇は、家の中を見回す。
窓を開けて、空気と光を入れる。
低い棚の上に並べられた桃色の小物たちを、しゃがみ込んでじっと見る。これらを身に着けた幼い光希は可愛かったのだろうな、と思う。
うさぎの縫いぐるみを触ると、隣の女の子の人形が倒れてしまい、慌てて戻した。
桃色集団の中に、緑色のお手玉があった。お手玉の下には紙があり、手にとって見ると、二人の人間らしきものが笑っている絵が描かれている。
『たんじろうちゃん だいすき』
絵に添えられた下手くそな文字。
『ち』と『す』の字が逆を向いている。
……これ、隠しておいた方がよくないか?
義勇は、善逸がこれを見付けて盛大に拗ねる様子を思い浮かべて首を捻った。
そこへ、二階から声がかかった。
「義勇さーん!掃除終わりましたー!」
義勇は紙を元に戻し、二階へ向かう。
開いてる扉へ向かうと光希が顔を出した。
「とりあえず埃は取っ払いましたけど、まだまだ本には被さってます。雑巾で拭きながら行きましょう」
「ああ」
「確認したものはわかるように、こっちに積み上げていきましょう。竈門家のことや鬼に関することが出て来たら教えてください」
「わかった」
本棚に向かう光希。
「お前は、炭治郎のことが好きだったんだな」
「え? ああ、子どもの頃ですか?」
「そうだ」
「ええ、大好きでしたよ。炭治郎ちゃん」
光希は隠すこともなくにこりと笑った。