第56章 探しもの
家に向かいながら光希は義勇に現段階でわかっていることを話す。
桑島が遺書で生家を示してきたこと、母の日記、家系図、炭治郎とのこと。相槌のない中で、前回訪問時のことを手短に伝えていく。
「我妻に、連絡は」
「はい、しました。昨夜」
「そうか」
「返事がこれです」
光希は義勇の目の前に紙を広げて見せる。
そこには「駄目だ」と書かれていた。
義勇と一緒に生家に行きます、に対する善逸からの返事がこれだ。
「……いいのか」
「いいですよ?」
「しかし」
「なんで俺があいつの言うことを聞かなきゃいけないんだ。俺はやりたいことはやります。必要なことだと思うから」
義勇は手紙をじっと見る。
気にしているようだ。
「大丈夫ですよ?本当に止めたければあいつもちゃんとそう書いてきます。これは、我儘を言ってみたかっただけでしょう」
「………」
義勇は納得がいってないような顔をする。
光希も善逸からの手紙をじっと見る。
「……『駄目だ』と書いてある。もし俺を止めたいのなら『嫌だ』と書くはず。その方が俺は躊躇する。あいつが嫌がることはしたくないから。駄目だと止められたら逆に俺はやりたくなる」
「あいつがそんな心理戦を考えていると思うか?」
「ははは、どうでしょう」
光希は笑いながら胸ポケットに手紙をしまう。
「大丈夫ですよ。あいつもちゃんとわかってる。まあ、嫌なんでしょうけど。でも、俺がそれをわかった上でなお行くといってるんだから、納得してると思いますよ」
「拗ねる」
「そしたら回復するまで放置です」
「怒ったら」
「そしたら喧嘩です。俺もあいつも強くなりました。大喧嘩は見物ですね。あはは」
歩いていくと知った道になり、家が見えてくる。
「あ、あれです。そうか逆から来てたんだ。
とりあえずものすごい埃なので、俺が書庫をざっと掃除します。じゃないと埃にやられて肺が死ぬ」
二人で門をくぐる。
「あ、家に入るとき挨拶してくださいね。お願いします」
光希が義勇に笑いかける。
「何故だ」
「へへ、まだ入るの…ちょっと怖いんです、俺」
「……承知した」
義勇は深くは聞かずに頷く。
光希はそれが少し嬉しかった。