第55章 軍事指南
輝利哉の部屋の前に着く。
「では、失礼致します」
「ああ。今日は沢山ありがとう。いろいろ教えてもらって、勉強になった」
「どういたしまして」
去り際に、光希は腰を折って膝に手を付き、輝利哉と目線を合わせる。
「一緒に、頑張ろうな」
小さな声でそう言うと、「内緒」というように口に人差し指を当てて悪戯っ子の様に笑った。
輝利哉は少し驚いた顔をしたが、にこりと笑って頷いた。
そのまま光希は自室に戻る。
机に向かって仕事を始める。
昨日の分の仕事だ。
途中で「あ」と声を出し、違う紙に手紙を書く。義勇と生家に行く旨を善逸へ知らせる手紙だ。
わざわざ教えなければいけないわけではないが、黙って行くのも良くない気がした。
心配無用と最後に綴り、窓から鴉を呼んで届けてもらうように頼む。
「ふー……」
そのまま去っていく鴉を見ながら長く息を吐く。
朝からノンストップだ。
流石にきつい。
「……よし!頑張れ、俺!」
自分を鼓舞して机に向かう。
じきに思考に集中し始め、声が聞こえなくなる。
夕飯だと呼びに来た悲鳴嶼は、彼女を引き戻すのに苦労した。
その日の深夜過ぎ、光希は眠りに落ちるギリギリまで仕事をして、倒れ込むように布団に入り眠った。
「……、………善逸…」
彼女の寝言を聞いている者はいなかった。