第55章 軍事指南
部屋に戻ると、扉の前で輝利哉が座って待っていた。
「輝利哉様。いつからここに……お呼び頂けばお部屋にお伺いしましたのに」
「……私が待つべきだと思ったからだ」
輝利哉が立ち上がり、反対に光希が輝利哉の前に膝を付く。
「これ、……ありがとう」
そうお礼を言って、輝利哉は光希の前に羽織を出す。
「はい」
光希がそれを受け取る。
「……迷惑をかけた」
「とんでもありません。俺の方こそ、多大なるご無礼の数々、大変失礼致しました。ご容赦くださいませ」
光希は深々と頭を下げる。
「無礼では、ない」
「………」
「自分の真の言葉でなければ私に正確に伝わらない、そう思ったのだろう」
「はい」
「だから、無礼ではない。おかげで私は救われた」
「そう仰っていただけると安心いたします」
「……もう、さっきのように話してはくれないのか」
「出来ません」
「そうか……」
輝利哉が俯く。
「私が命令すれば、敬語抜きで喋ってくれるのか?」
「ご命令とあらば」
「なら……、」
「しかし!多用はいけません。慣れてしまいます。それこそ周りの者に示しがつきません」
「ここぞという時に取って置けということか?」
「その通りです」
「……わかった」
「輝利哉様。お一人で抱え込まれませんよう。俺か悲鳴嶼さんが必ず側にいますから。いつでもお声がけください」
「うん」
「ちゃんと俺に泣き付いてお話出来たことは素晴らしかったです。出来そうでなかなか出来ないことです」
「……うん」
光希は立ち上がり、輝利哉の頭を撫でる。
「さ、ここは冷えます。お部屋に戻りましょう。お送り致します」
二人は並んで歩く。
「それが総司令官の隊服か」
「ええ。やっと着ることが出来ました。輝利哉様のお陰です」
「私の?」
「はい。今まで怖くて着られなかった。でも、あなたにこんな覚悟をさせるのに俺が逃げてちゃ駄目だと思って、初めて袖を通しました」
「そうか」
「後押しをしていただいてありがとうございます」
「どういたしまして」
輝利哉が少し嬉しそうにする。