第55章 軍事指南
「明日、俺、義勇さんの家にお邪魔します」
「そのようですね」
「お邪魔だったら、俺は母ちゃんに挨拶してすぐに帰ります」
「いえ。大丈夫ですよ。私もしばらく行けてませんし」
「お忙しいですもんね……。あの人は暇なのに」
「……ぷっ。ちゃんと鍛錬してますよ?」
「当たり前です。詰将棋ばっかりやってたら、ど叱りますよ」
「光希さんにどうしても将棋で勝ちたいようです。勝てないのがよっぽど悔しいみたいで」
「それは無惨を倒すより難しいってお伝えください。今日」
「……今日?」
「今から行って、今夜泊まればいい。俺の用事はこれでお終いですから。あ、あと、明日はここから出発するからとりあえずここに来てくださいっていう事もお伝え願います」
「……わかりました。では、それらを伝えに行ってまいります」
「お願いします。しのぶさん」
光希はペコリと頭を下げる。
しのぶはにこりと笑うと立ち上がる。
「継子も、私も、……あなたに取り持ってもらってるだなんて」
「気のせいですよ。俺は俺の好きな人たちに幸せでいて欲しいだけです。おせっかいばかりですみません」
しのぶは「……ありがとうございます」と小さく呟いて部屋から出ていった。
光希は、しのぶが去って行った方をじっと見つめる。表情はない。
「幸せでいてください。どうか…今だけでも」
誰に聞かせるわけでもなく、一人言を言う。
少しの間そこで風に吹かれ、またスッと立ち上がった。