第55章 軍事指南
「……今、私の思考をすり替えたな」
「ああ。これが戦略思考だ。前に講義した」
「舌戦で使うやつだ」
「よし、すぐに気付いたな。偉いぞ」
光希がにんまりと笑う。
「でも、考え方を変えると、全然違う光景が見えてくるんだな。不思議だ。父上の死が、愛とか幸せになるなんて思わなかった」
「少しは楽になったろ」
「だいぶ楽だ。悲しみや不安はあるけど、絶望じゃなくなった」
「素晴らしい」
「光希、ありがとう」
「どういたしまして」
「私の話を聞いてくれるか。光希に不安を話したら、希望にすり替えてくれるのかもしれない」
「ああ、やってやるよ。どんどん話せ」
輝利哉は光希に沢山話しをして、光希はそれを聞いた。輝利哉は光希の腕の中で羽織を握りしめ、泣きながら話す。
涙はまだまだ出ているが、震えは止まり、光希に甘えるように体重を預けてくる。
そして、話しているうちに疲れてそのまま眠ってしまった。
光希は少年を起こさないように羽織を脱ぎ、小さな身体を抱きかかえる。
廊下に出て隠を呼び、輝利哉を託す。羽織を握って離さないので、そのまま持たせる。
身体を触られたり動かされても、全く起きない輝利哉。深い眠りについているようだ。
「おやすみなさいませ」
隠に抱かれた輝利哉の頭をそっと撫でる。
小さな少年の寝顔は安らかだった。
「ほら……やっぱり光栄な役回りだよ」
光希は、ふっと微笑んだ。
光希は会議に向かう前に自室に寄り、衣紋掛けにかけてあった上着に着替える。そして皆が会議をしている広間に走った。