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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第7章 冨岡邸


半刻後、稽古場に行くと光希は掃除をしていた。

「あ、義勇さん!」
笑顔で立ち上がり、雑巾を片付ける。

「お願いします!」
竹刀を義勇に渡し、頭を下げる。
義勇は竹刀を構えて集中し、「来い」と言った。

「はい!」

床を蹴って光希は勢いよく突っ込む。
なんだ、先程と同じか……と思い、弾き飛ばそうと下段から竹刀を降ると、目の前で光希が急に止まる。羽織と長い髪だけが、慣性の法則により前へ流れる。小柄な光希が体勢を低くしたこともあり、義勇の竹刀は光希に当たることなく空を切る。

―――なにっ?!

義勇は驚いた。あの速さの中、こんなに急に止まれないだろう、と。

光希はひゅぅっと呼吸をして「水の呼吸、肆ノ型、打ち潮!」と技を出す。

見事に隙をついたが、そんなことで義勇から一本取れるはずもなく返す刀で弾かれる。

部屋の中で立ち位置が変わった二人。光希は着地と共にまた義勇に向かう。速い速度で打ち込み続ける。速いと言っても義勇にとっては遅い打込みだが、何かあると思って片手で楽々と捌き続ける。
すると光希は義勇に刀を払われた、ような振りをして横に身体を流し、その勢いで床をしゅっと滑り、背後に回り込む。
そのまま滑る勢いを利用して足を薙ぎ払いに行く。


義勇も背後を取られたことに一瞬目を見開いたが、薙ぎ払いを飛んで躱し、「甘い」と肩に一発入れる。
「あだっ!」と肩を押さえる光希。

義勇は稽古場を見渡す。そして足元をみる。
「そういうことか」足袋越しに滑りを確認する。

「……ちぇ、もうバレた」
光希が口を尖らせて呟いた。

光希は先程、掃除をする振りをして、道場の半分だけ雑巾をかけた。
これで、滑りやすい乾いた床と、ブレーキの掛けやすい湿った床ができた。そして今、光希は裸足になっている。足袋を履いている義勇には気付かれないと思ったのだが甘かった。

床を見たまま義勇は何も言わない。
それが逆に怖い。

「怒ってますか……?」
「何故だ」
「小細工、したから」
「だから、何故怒るんだ」

怒ってないようだ。

「次はどうする」

それどころか、どこか楽しそうだ。

「次は、……真っ向勝負です!」

ほっとした光希はまた楽しそうに駆け出した。

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