第7章 冨岡邸
吹っ飛ばされた光希は道場に転がる。
横っ腹を押さえて「ゲホッ」とむせた。
「ここまで」
「ありがとう、ございました」
よろりと立ち上がって、一礼する。
自分の木刀を片付けながら、義勇の竹刀も受け取って、片付ける。
「そろそろ飯だ」
義勇がそう言うと、「しまった」と小さく呟く光希。
「失礼します!」とお辞儀をして、慌てて稽古場を出ていく光希。「いってぇ」と言いながら廊下を走っていく。
義勇が自室に戻ると千代が現れた。
「お食事が出来ましたが、どうなさいますか。光希さんと共に食べられますか?」
そう聞かれ少し考えて、「共に。ここへ」と言う。
「かしこまりました」と千代が去る。これでかしこまれる千代は拍手を浴びてしかるべきだろう。
少しすると「失礼いたします」と光希の声。千代からここで食事だと聞いたのだろう。自分の膳を持ってきていた。
千代が、義勇の膳を運び入れる。
光希は自分の膳を持って下座に座る。
「では、失礼します」と千代が去ろうとした時、「あ、千代さんっ」と立ち上がって駆け寄る光希。何やら耳打ちをしている。「はいはい、わかりましたよ」と千代は笑って去っていった。
光希は部屋に戻り、二人分の茶を煎れる。
義勇の膳に湯呑を置くと、食べ始めている義勇が、じっと光希の膳を見ていた。
明らかに量の少ない光希の食事。さっきの行動はこれか、と義勇は合点がいった。
光希は冷や汗を垂らしたが、義勇が何も言ってこないことをいいことに知らんぷりをした。
「いただきます」と手を合わせて食べ始める。
「足りるのか」
「多いくらいです」
「お前は軽すぎる。食え」
「無理です。吐きます」
こいつが無理というなら、本当に無理なのだろう。
「食べ終わったら、もう一回、いいですか?」
「半刻後だ」
「ありがとうございます!」
途端に笑顔になる。
そして、顔付きが変わる。半刻の間に作戦を練るつもりか。先程はお披露目。次は勝とうとしてくる。
義勇は光希の考えを読みながら、己も気分が高揚していくのを感じた。
この久々の感覚に、悪くない、と心で呟いた。