第7章 冨岡邸
光希は行李を降ろすと、ふぅ、と一息つく。
「疲れただろう。少し休め。昼飯を運ばせる」
「俺がやります」
「通いの女中に頼むだけだ」
「ならその方にご挨拶がしたいので、ついて行かせて下さい」
光希は義勇に付いて廊下に出る。
義勇は台所へと向う。
「千代」
義勇が呼び掛けると五十代くらいの女性が振り返る。気配を感知しないところをみると、一般人なのだろう。
「おかえりなさいませ。お早い到着ですね」
「昼餉を頼む」
「かしこまりました」
千代は優しく笑う。
「初めまして。如月光希と申します」
「あら!この子が例の子ね。まあ、美少年」
「あ、いや、俺は……」
「光希は女だ」
初めて名前で呼ばれ、光希は一瞬義勇を見上げる。義勇は平然としている。
「あら、そうなの?それにしても可愛いわねぇ。冨岡さんと並ぶと小動物みたいだね」
「はは、こう見えて十六です。よろしくお願いします」
「こちらこそ。お母さんだと思って甘えてね」
千代は優しく笑うと、鼻歌を歌いながら料理に視線を戻した。
義勇は台所を出る。
振り返ると、光希は千代の後ろ姿を見ていた。
「おい」
義勇が声をかけると、はっと我に返る光希。
「あ、すみません!」
「……屋敷を案内する」
「はい!」
光希が駆け寄る。
横目でちらりと見ると光希は寂しそうな顔をしていた。
「千代さん……、優しそうな方で安心しました。通いとおっしゃってましたが、毎日来られるのですか?」
「俺は仕事で屋敷を空けることが多い。だから毎日ではなかったが、これからはお前がいるから来れる日は毎日来る」
「え!そんな、俺一人の時はわざわざ来ていただかなくても大丈夫ですよ!なんとでも出来ますから!」
「千代が、そうすると言うんだ」
「ですが……」
「一人にさせたくない、と」
「……じゃあ、俺、その分強くなります。いただく御恩のお返しは、それしかない」
義勇からの返事はなかったが、温かい雰囲気が流れた。