第7章 冨岡邸
光希は義勇の後ろを歩く。
義勇の足は速いが、平然とついていく。
無言のまま、街道を二人は歩いていく。
しばらくすると、義勇が口を開いた。
「俺は、喋ることが好きではない」
ぽつりとそう言った。
「はい」
光希が答える。
「だが、話を聞くのは嫌いではない。好きに喋ればいい。相槌は期待するな」
予想外のことを言われて驚く。
これから寡黙に暮らしていくのだと思っていたから。
「承知いたしました。俺は話すのが好きなので、勝手に一人で喋ります」
笑いながらそう言った。
「冨岡さん、一つお願いがあるのですが」
返事はない。
「不躾な願いで恐縮ですが、この先、義勇さんとお呼びしてもよろしいでしょうか」
「構わない。なぜだ」
「短いからです」
ケロリとそう答える光希に首を傾げる義勇。
相槌をしない宣言をしたのに、早くも崩れた。
「短い?」
「冨岡さんより、義勇さんの方が短いじゃないですか。呼びやすいので」
「あまり変わらない」
「いえ、だいぶ変わります。俺の中では」
その後、光希は自分の喋り方についても義勇に語った。私より俺の方が短いし、女言葉は長くていらいらするから使わない、など、いろいろ話す。
義勇からの相槌はほぼ無かったが、この変わった思考の女の話を珍しく熱心に聞いているのがわかった。
「その法則でいくと、竈門炭治郎は竈門と呼ぶことになる。下の名で呼んでるのは何故だ」
珍しく長文で話す義勇。
「炭治郎は例外です。滅多にありませんが、こういう場合もあります」
「特別、ということか」
「そうです」
喋りながら歩いているが、二人の歩行速度は全く落ちない。
随分距離を歩いたが、全く息をきらさない光希に感心する。
……しっかり鍛えているな
そうしているうちに冨岡邸に到着した。もう昼は過ぎていた。
「ここを使え」
部屋に案内される。
布団や文机、鏡台が置かれていた。光希が直ぐ暮らせるよう、準備していてくれたようだ。
「ありがとうございます」
光希は背負っていた行李を下ろす。