第53章 協同逢瀬作戦2
少しすると、光希の声が聞こえる。
『炭治郎が着替え終わってたら廊下に出して。お前はそのまま部屋で待機』
指示を聞いて、先程着替え終わった炭治郎を廊下に蹴り出す。
「な、なんだよ、善逸」
そこへ、玄関に椿油を置いてきちゃったから取ってきてと言われたカナヲが廊下に出てくる。
廊下で二人が対面する。
それぞれ、光希と善逸が店員の力を借りて揃えた渾身の一着を着ている。
「え…、……カナヲ、……っ!」
「あ……た、んじろう……」
いつもと違って今風な格好をしている炭治郎。袴姿も新鮮だ。深い青色の着物の首と袖からは、シャツの紅色が挿し色として映える。凛々しい姿をしていた。
……嘘。なんて、なんて格好いいの
一方カナヲは、炭治郎が見たことのない上品な緑の着物に艶やかな橙の帯。髪は降ろされて横を編み込まれてハーフアップになり、そこにいつもの髪飾りをつけている。そして、薄く化粧をしていた。
……嘘だろ。なんて、なんて可愛いんだっ!
二人は驚き過ぎて言葉が出ない。鼓動も早過ぎてうまく呼吸が出来ない。
炭治郎が何も言わずに目を反らすと、カナヲが悲しそうな顔をした。その匂いを察知した炭治郎がしまったと思う。
……心のままに、素直に!
光希の言葉を思い出して炭治郎は勇気を出す。
「カナヲ!あ、あの…えと……凄く、可愛いよ。綺麗だね」
頬を染めて微笑んだ炭治郎が、カナヲを見て照れくさそうに頭を掻きながらなんとかその一言を絞り出す。
部屋の中から固唾を飲んで見守っていた光希が、よし、と拳を握りしめる。
カナヲがバッと顔をあげて炭治郎を見る。頬を染めて口元に手をやり、嬉しそうに小さな声で言った。
「ありがとう……炭治郎も、よく似合ってる。すっ…、素敵だ…よ」
「あ、ありがとう。へへ」
「ふふ」
二人は赤い顔で小さく笑い合った。
「カナヲ、あった?」
「あ、ごめん。今取ってくる」
光希が顔を出すと、カナヲがパタパタと玄関に向かって走り出す。
光希は炭治郎に向かって頷く。
炭治郎は深く息を吐き出した。