第6章 蝶屋敷 2
さて、と善逸は自分の手紙へを取り出す。
炭治郎と伊之助からの目線が来る。
「……いや、見せねぇよ?」
「俺たちの見といて何言ってんだ紋逸」
「炭治郎のは見てねぇよ」
「あれは見たも同然だ!」
昨日の今日だ。なんかヤバいこと書いてあったらどうしよう……昨日のあの行動を匂わす何かが。
そんな事を思ったが、この二人を退けることが出来そうになかったので、諦めてそっと結び目を解いてみた。
開くと、そこには大きく「我妻善逸」と書かれていた。
そして、皆の手紙と同じように、末筆に「如月光希」と小さく自分の名前。
書かれているのはそれだけだった。
「あがつま、ぜんいつ……」
「なんだ?こいつの名前が書いてあるのか?」
炭治郎と伊之助には意味がわからない。
だが、善逸は手紙を見て笑い出した。
「善逸……?」
「これ見て笑ってやがる。自分の名前が面白いのか?」
――――…ちゃんと書けるんだぞって俺に教えたかったのかよ。俺の名前、間違いだらけだったもんなぁ。そんなのわかってるっつの。
途中で手習い投げ出した俺と違って、お前の字は、上手いなぁ……こんな綺麗な字で自分の名前を見るのは初めてだよ……
笑い続ける善逸の頬を、次第に涙が伝いだす。
そして、うっ、くっ、という涙声に変わっていく。
炭治郎がそっと善逸に寄りそう。
「……伊之助、きっと俺たちにはわからない何かが善逸と光希の間にはあるんだよ」
「……ふん。笑ったり泣いたりおかしな奴だ。ま、寂しいのはわかるぜ」
背中に触れる炭治郎の手が暖かくて、善逸は泣いた。膝を抱えてわんわん泣いた。伊之助も側に付いていてくれた。
泣きながら善逸は気が付いた。昨日光希を泣かせたが、自分が泣いてなかったことに。
俺も一緒に泣けばよかったんだ。
もう居ない。会えない。声も聞けない。
悲しくて寂しくて、善逸は友達の力を借りて、全力で泣いた。
泣き止むと、二人にお礼を言って、部屋を出た。
屋根に登り空を見上げる。
そこには青空が広がっていた。
空は繋がっている。
たまには見上げてくれ、光希。
俺も、空見るから。な。
「光希……、愛してるよ」
善逸は一人、空に向けて呟いた。
ポケットの中で、二枚の紙がカサリと音を立てた。