第6章 蝶屋敷 2
「なあ光希……これ、少し俺にもくれないか?」
善逸が床の半紙を拾ってそう言った。
「ん?いいぞ。たまに見ると笑えるぞ」
光希は紙を受け取り、文机に広げる。
隣から善逸が顔を近付けて覗き込む。
「どこで切ったらいいかな……ま、丁度半分にすればいっか。字、切れちまうけど」
「少しでいいぞ。この辺とか」
「いや、お前、それは俺が書いたお前の名前で、しかも間違ってるだろうが。あ、これは?これはあってるだろ?ん?いや、善の字、一本横棒多いな、くそっ」
あーだこーだ言いながら、自分の名前を見つめる光希を見て、善逸は心から愛しく思った。
「光希、ありがとうな。俺と一緒に居てくれて」
紙を見ながら善逸が目を細めて話す。下手くそだけど一生懸命書かれたお互いの名前を指でなぞる。
「お前のおかげで、俺は子ども時代を楽しく過ごせた。……思い出がいっぱいだ。感謝してる」
光希の目から、また涙が溢れる。
「なんっだよ、お前。本当にいい加減に、しろよ。さっきから何なんだよ、泣かせたいのかよ、俺を」
「はいはい、そうです。泣かせたいの。俺は」
そう言って、笑いながら自分の袖で光希の涙を拭く。
「もう会えないみたいな言い方、しないでくれよ」
「そんなこと言ったか?俺」
「これからも、俺たちの思い出は沢山できる。そうだろ?」
「もちろんだ」
「なら、いい」
光希は、ずびっと鼻を啜って、半紙を見る。
「やっぱり半分だな」
「いいのか?半分も」
「昔から、迷ったら半分こにしてただろ。やっぱりほとんど字、間違ってるしな。これ見ろよ、我善妻逸になってる。お前の名前は難易度高すぎだ」
そう言って光希は紙を綺麗に半分に切った。
「ほら」
渡される半紙。
「ありがとう。大事にする。常に持ち歩く」
「そこまでしなくても。あ、でも持ってればお前が死んだとき、首が吹っ飛んでても直ぐに名前がわかるか。我妻か如月の二択だがな」
「縁起でもないこと言うなよ……」
「ははは、俺も持ち歩いてっから、もし死んだら直ぐに善逸の所に連絡いくな」
「俺の名前、間違ってっけどな」
二人でいつものように笑う。
また、こんなふうに笑い会えることを願って。