第6章 蝶屋敷 2
抱きしめられているので、善逸の声が耳元で響く。
「お前さ、素直にならなさ過ぎ。もっと頼れよ、俺を。俺の前では泣けばいい。な?」
いつも光希がしてくれるようにゆっくりと背中を叩く。
「善逸……」
「不安だよな?」
「……ふあん、だ」
「寂しいか?」
「………っ、さみしいっ!」
「そうだよなぁ。また離れるのは辛いよなぁ」
「……っ、ひっく、…つら、い…つらいよぉ…」
「俺も辛いよ」
「一人、にっ、……なりたく、ないよぉ…一人は嫌だよ……、怖い…ふぇっ…怖いよ……」
「よしよし」
「ひっく、……っ、嫌だ嫌だ嫌だぁ…」
「大丈夫大丈夫」
「寂しいよ…善逸……うわぁぁぁぁん……」
光希は子どもの様に泣いた。人前で泣いたのは記憶にある中では初めてだった。
涙が止まるまで、善逸は抱きしめてくれていた。
「よし。じゃあ断ろう。明日冨岡さんとやらに俺が話してやる」
善逸がそんなことを言うから、涙が落ち着いた光希は、善逸からばっと離れて「おい、それは駄目だ」と言う。
「何でだよ。行くの嫌なんだろ」
「それとこれとは話が別だっ!」
……こいつわかってて言ってやがる。口元笑ってんじゃねぇかちくしょう。くっそムカつく。
泣いてしまった手前、強く出られない光希だったが、心の中がいつになくすっきりした事に気が付いた。
「善逸。俺は行く。でも、寂しいのも辛いのも本当だ。だから、辛くてもお互い頑張ろうな。
それと、泣かせてくれてありがとう。いろんなものが涙で出ていった気がする。楽になったよ」
「素直すぎるのも、何だか気持ち悪いな……」
「たまには、な」
赤い目をして、光希が笑う。