第6章 蝶屋敷 2
「俺がじいちゃんに連れて行かれてさ。お前もじいちゃんに育手紹介されて、それぞれ修行に入ったろ」
「うん」
「そこから、一年以上離ればなれ。音信不通」
「うん」
「俺はその間辛かった。修行も地獄だったけど、……お前に会えなかったのが何より辛かった」
「……うん」
「で、選別で再会した」
「髪の毛が黄色になってて、背も伸びてて、最初は誰かわからなかった」
「そうだったな。で、そっからほとんど一緒にいて。もう一回離れるのは、正直…俺は、辛い」
善逸は半紙を握りしめる。
「お前は、平気なのかよ。寂しくないのかよ。俺と…離れても」
「……善逸は、馬鹿だな」
「なんだよ。俺が珍しく素直に話してるのに」
「俺が、そんなボロボロの紙をずっと持ってるのは…なんでだと思うよ」
善逸は手の中の紙を見る。
「俺は、強くなりたいんだ。だから、どんなに辛くても寂しくても頑張ると決めたんだ」
光希は唇をぐっと噛みしめる。
「那田蜘蛛山で、皆が、お前が死んじまうかと思った。また一人になるのかと思った。もう二度と、昔みたいな思いはしたくないんだ」
目に涙が溜まる。
「もし、俺に皆を守る力があるなら、鍛えて鍛えて強くなりたいんだ。胡蝶さんや冨岡さんに頼ることしか出来なかった俺が、今度は皆を守れるように」
「光希……」
「辛いのが自分だけだなんて思ってんじゃねぇよ。俺だって……寂しい。そんなちっぽけな紙切れ持ってないと、耐えられねぇくらいな」
光希はふいっと目を逸らす。
「お前、なんで泣かねぇの?」
「俺は泣かない」
「なんでだよ。我慢すんなよ」
「泣かない」
「泣けよ!泣いたっていいんだよ!!」
「うるせぇ!泣かねぇっつってんだろ!!」
そう言いながら光希の目から涙が溢れる。
「この…意地っ張りがっっ!!」
善逸は光希の腕を引いて抱きしめた。
身体をすっぽりと包み込まれて驚く光希。
善逸は持っていた半紙をそっと床に置き、両手で強く抱きしめる。