第6章 蝶屋敷 2
元々多くない光希の荷物。
隊服を明日着る分だけ残して、行李にしまう。普段着の着物などを詰める。
あと、何がいるんだ?箸とか?いや、家にあるだろ。いやでも普通持ってく物なのか?わからん……
行李を前に、腕組みをして考える。
まあ、いいか。ないと言われたら買いに行こう。
荷物が増えるよりましだ。
服の上に手鏡などの身だしなみ用品を乗せ、蓋を閉める。
持ち物は、以上だ。
あとは刀と伊之助にもらったどんぐりと、それともうひとつ……
「終わった」
部屋に寝転がる。
ここで過ごした事を思い出す。皆とわいわいできて楽しかったなぁ、と思う。
外は夜になった。静かな夜だ。明日からはもっと静かになるのだろう。
そこへ、「光希、いいか」と声がかかる。
……やっと来たか、と思う。
「いいよ」
声を返すと障子が開き、善逸が入ってきた。
「準備終わったのか」
「ああ。少ないからな」
片付いた部屋の中、机の上に置かれた物にふと目がいった。行李にしまいこまれていないので、持ち歩くものなのだろう。
「これ……」
善逸はどんぐりの側に置かれていた古い紙を見付ける。
「あ、それは」
光希が手を伸ばす前に善逸が手に取る。広げてみるとそれは半紙で、子どもの下手くそな字が書かれている。
「勝手に見んなよ……」
珍しく頬を赤らめる光希。無理やり取り返そうとはしないものの、少々気恥ずかしいようだ。
善逸は座って、その紙を見る。
「これ、…どっちの字だ?」
「どっちも、だ」
紙には、如月光希、我妻善逸、と何度も名前が書いてある。
「お前が俺の名前、俺がお前の名前を書いてんだよ。初めて二人で手習いした時だ」
善逸も思い出した。初回は名前の練習だと言われたとき、自分の名前より相手の名前を書けるようになりたくて練習したんだ。競うように一つの机と筆を取り合って、交互に。喧嘩しながら……
「なんで、こんなもん、持ってんだよお前」
「なんでだろうなぁ。捨てられなくて」
へへ、と笑う光希。
「お前、俺の名前の字、間違ってる」
「仕方ねぇだろ。難しすぎんだよお前の名前」
今日、初めて善逸が笑った。
大きかったり曲ってたりする子どもの字を見て、ようやく素直な気持ちになれた気がした。