第48章 柱稽古
周りの隊士も、二人に負けじと走り始める。
よろける足を果敢に動かす。這ってでも前に進もうとする者もいる。
「いいか!しんどくなってからが勝負だ!気力で頑張れ!駆け抜けろ!はぁ、はぁ、息を吸え!最後まで走るぞ!ぜぇ、ぜぇ、転んでもいい、また立ち上がって、走れ!!負けるなーー!!」
光希の叫びに皆がまた「うおおーー!」と叫ぶ。
「はぁっ、はぁ、最後!一周!!」
光希はそう叫ぶと同時にひゅうっと息を吸い、更に速度を上げて走り出した。
全速力だ。
嘘だろ…!馬鹿じゃないの?
隣の善逸でさえも信じられないという顔をする。
隊士の間をすいすいとくぐり抜けて走る。
流石にもう喋れない。全ての力を出し切るように走っていく。
「はぁ、はぁ、置いてくな!」
善逸も速度を上げて隣に来た。
光希は一瞬彼を見て、にいっと笑う。
なら、付いてこい。
声には出さないでそう伝える。
視界の端が黒くなったり、白くなったりし始める。自分が何をしているのかわからなくなりそうになる。でも、その度に身体に力を込めて、前へ前へと走り続ける。
そのまま全速力で駆け抜け、走り切った途端に足がもつれて転倒、ズザザザ…と派手に地面を滑った。
「光希…っ!」
善逸と宇髄が慌てて駆け寄る。
「大丈夫かっ?」
皆の前だというのに敬語を忘れて覗き込む宇髄。
隊士達もわらわらと見に来る。
「ぜぇー…ぜー…、はぁ、はぁ、げほっ……」
「お、おい……生きてるか?」
「ら……楽勝!」
光希は満面の笑みを見せ、何度か深く呼吸をして宇髄の腕の中で意識を飛ばした。
それを見た隊士たちは、今まで以上に歯を食いしばって走り出した。こんな走りを見せられたら、自分たちも走るしかない。強くなるしかない。
そこにはもう、光希の悪口を言う者はいなかった。
宇髄の稽古場の士気が、
恐ろしい程に上がった。