第46章 生家へ
日記は光希の母親のものだった。
『弥生朔日。
今日は兄さんの家へ行く。同い年の従兄弟に会えて光希は大喜び。はしゃぎ回って縁側から転がり落ちて大泣き。炭治郎くんに、おまじないをかけてもらって泣き止む。
兄さんの神楽を見せてもらって喜んでいた。』
『皐月十五日。
兄さんの家に光希を預ける。寂しいはずなのに、炭治郎くんがいるからと気丈に振る舞っていた。泣いているかもしれない。体調が悪くて申し訳なく思う。早く熱を下げなければ。』
『皐月十八日。
体調回復。光希が兄宅より、帰宅。炭治郎くんと結婚の約束をしたのだと大威張り。父は終始苦笑い。兄宅では泣いたりせず、お利口さんにしていた様子。帰宅後は禰豆子ちゃんにあげるのだと、折り紙を折っていた。』
禰豆子の名前も出ている。
炭治郎、神楽…ほぼ、間違いないだろう。
「家系図、あるかな…一応。同じ名前という可能性が、ないわけでもない」
光希はゆっくり本を閉じ、立ち上がる。
書斎を出ていく。
善逸は、日記を見つめたまま動けなかった。
――もし出逢った順番が違っていたら
もし自分より先に炭治郎が光希と出逢っていたら、きっとお互い惹かれていただろう。
そうずっと、考えていた。
出逢っていた。
出逢っていたんだ、二人は。善逸と光希が出逢うもっとずっと前に。
血縁という、とんでもなく大きな絆を携えて。
「……こりゃ、ちょっと、…きっついなぁ」
善逸が呟いた。
風が悪戯にパラパラと本をめくる。
『師走三日。
光希、四歳になる。最近は語彙が増え、大人を言いくるめる程だ。誰に似たのか喧嘩っ早い所があって、ハラハラするが、元気に成長している。健やかな成長をただただ祈る。』
「喧嘩っ早いのは、昔からか。桃色着てても、やっぱ変わってねえよ。…ふふ、師走生まれ、ね。誕生日がわかってよかったなあ」
今まで善逸と同じ日を誕生日にしていた光希。
ああ、どんどん離れて行く。
光希が、一人で歩いていってしまう。
息が吸えない。
胸が苦しい。
辛くて辛くて、涙も出なかった。