第46章 生家へ
出発の時に女将が二人に声をかけた。
「善逸、光希。また何時でもいらっしゃい。今度は旦那様がいらっしゃる時に」
「はい、次回はちゃんと払います」
「お世話になりました」
女将に一礼して「藤袴」を出る。
「泊まってよかったな」
「そうだね。女将さんたち怒ってるかと思ってたけど、そうでもなかったね」
「そうだな」
光希は一本の花を持っている。
「もらったのか?藤袴」
「うん。いい匂い」
「女将さんがくれたの?」
「ううん、あの女の子」
「まじかよ……」
「ははは」
懐かしい花の匂いを漂わせつつ、家まで喋りながら歩いていく。
「女将さんも父様のお墓はわかんないっていうからな……母様の家の方じゃないかって。父様、如月家と仲悪かったのかなぁ」
「お母さんの方だとすると難しいな。旧姓がわからないと……」
「家系図…あるかなぁ」
「探してみよう」
門をくぐって、玄関の前に立つ。
光希が呼吸を整える。
「……さてここに、なんと二本の鍵があります」
「ぶはっ……くくっ、やめろ…」
「ぷくく…一本は、くくっ、…土から掘り出され、サビサビです。そしてもう一本は大切に管理されていたのでツヤツヤです」
「ふ、ふふふっ……本当ですね、ほほう、不思議なこともあるもんだ」
「さあ、善逸君、どっちの鍵で開けますか?」
「え?俺が決めていいの?」
「あなたに決定権をあげます」
「ははは、じゃあせっかくなんで、ツヤツヤで」
「わかりました!では、ツヤツヤの鍵で参りたいと思います」
光希は緊張をほぐすために明るく振る舞いながら鍵を回す。善逸もちゃんと乗ってくれる。昔からの二人のノリだ。
カシャンと開く音がする。
光希が善逸を見る。善逸が笑顔で頷く。
扉の取手を持つと、善逸がその上に手を重ねてくれた。光希が顔を綻ばせる。
「父様、母様。ただいま帰りました」
光希が声をかける。
「お邪魔いたします」
善逸も声をかける。
二人で引いて、光希の生家の扉を開けた。