第46章 生家へ
部屋に布団を敷く。
本当は宿の者が敷くが、それを断って自分達で敷く。
「布団汚せないから、今夜は駄目だよ」
「わかってるよ……」
善逸はなんだか、そんな気にならなかった。
ここがかつて過ごした宿屋だからだろうか……
「血ぃ出てこねえの?」
「うん。まだ」
「そっか……」
二人して天井を見る。
「今日ね……家の扉開けたとき、ちょっと怖くなっちゃった。あんなに来たかった所なのにね」
「うん」
「何かね。わかんないけど。薄暗い部屋が…私を拒んでるみたいで。今更何?って言われた気がした」
「そっか……」
善逸もその時の光希を不思議に思っていた。恐れるように戸を閉めて、離れたから。
「……ただいま、って言わかなったからじゃねえの?」
「そこ?」
「多分そうだよ。明日は大丈夫だ」
「じゃあ明日はただいまって言って戸を開けるよ」
「うん、俺もお邪魔しますって言うから。お前が過ごした家なんだから、堂々と帰ればいいんだ。心配すんな」
「ありがと、善逸」
「うん。……よし寝よう。俺が変な気起こす前に」
「そうね。よし急いで寝よう」
「おやすみ、光希」
「おやすみ、善逸」
光希は、昔の夢を見ながら眠った。
いい思い出にも、辛い思い出にも、絶対に善逸が絡んでくる。
夢の中で、ここでの出来事をゆっくりと振り返った。
翌朝、起きると直ぐに掃除を始める光希。善逸もそこそこの時間に起きたので、二人で従業員がドン引く程にピカピカにした。
布団や机も次の客が来たときにセットしやすい完璧な状態にして置いておく。わかっているからこそ出来る、正に文句なしの状態に仕上げた。
「次に使うお客様は、幸せね」
女将も満足そうに笑った。
新入りの女の子が部屋を見て目を丸くしたので、善逸がカッコつけて「まあ、俺…八年やってたからな。君も頑張れば出来るようになるよ」と言う。
しかし光希が「俺は九年だ。はは」と笑うと、女の子は光希を見て頬を染める。
「ちくしょう、なんでお前ばっか」
「悪いな、俺ばっか」
ふざけ合いながら荷物を纏める。