第46章 生家へ
しばらくすると女将が部屋にやってきた。
「善逸、光希…久しぶりね。よく来てくれたわ」
「女将さん、その節は大変ご迷惑をおかけしました」
「育てていただいたご恩を仇で返すような真似をしてしまい、大変申し訳なく思っております」
善逸と光希は深く頭を下げる。
「いいのよ。二人とも小さい頃から本当によく頑張ってくれて、感謝しかないわ。ゆっくりしてってね」
「はい」
「ありがとうございます」
「今夜は二人は…同じ部屋でいいのかしら……?」
女将が、含みを持たせて聞いてくる。
善逸が光希に目線を向ける。光希はコクンと頷く。
「はい。俺達婚約してるんです」
「婚約……」
「はい」
「まあ。あの善逸と光希がねえ……」
女将は遠い日のことを思い出す。
仕事をしながら喧嘩ばかりしていた二人。でもいつも寄り添うようにくっついて、大の仲良しだった二人……
その幼い姿を、目の前に座る二人に重ね合わせる。
「そっか、婚約か。ふふふ、ならこれはご祝儀として返すわ」
女将は宿代をそのまま返してきた。
「え!駄目ですよ、女将さん」
「困ります、胡蝶蘭にタダで泊まれません!」
善逸と光希は慌てて女将に包を返す。
「あなたたちがここで働いた給金よ。足りないくらいだわ」
「でも……」
「いいのよ。どうせ光希は食べないしね。あなたたちは部屋を汚さないだろうし……あ、出るときに掃除してってちょうだいな。二人の掃除なら点検もいらないしね。だから、あなたたちを泊めてもこちらに損はないわ」
そこまで言われては受け取らざるを得ない。
「では、ご祝儀として、受け取らせていただきます」
「女将さん、ありがとうございます」
二人で頭を下げる。
「光希……」
「はい」
「あなた、思い出したの?」
「え……」
「ここに寄ったのは、もしかして家を見に来たから?」
光希は驚く。
「は…はい!何故、それを……」
「そう……思い出したのね。ご両親のこと」
「はい。……何かご存知なんですね」
「あなたはね、私の親戚の子なのよ」
「! そうだったんですか。だから、身寄りのなくなった俺を引き取ってくれたんですね」
「そうよ」