第46章 生家へ
だが、光希は扉が開くことを確認しただけで、扉を閉めた。
「え?入んねえの?」
「……明日だな。もう日が暮れる」
「でも……」
「明日にする。暗い中ごそごそしたら泥棒みたいじゃん。灯りもないし、見えないよ」
そう言って笑った。
「街に行って、宿屋探そう」
「いいのか?」
「うん。同室?別室?どっちがいい?」
「聞くまでもないだろ?」
「宿屋は壁が薄いからね、我慢大会だぞー。出血始まるだろうし、どのみち無理だよ?」
「頑張るよ。…ってか、まだ血ぃ出てこねえの?」
「うん」
「そっか……」
善逸に不安がよぎる。
「大丈夫だって。ちゃんと来るよ」
「うん……」
青い顔で俯く。
光希はそんな善逸に苦笑いする。
「なあ光希、……もし、」
「もし、は無い。大丈夫だって」
「……うん」
前は、赤ちゃん出来たら隊をやめると笑っていた光希が、そう言い切った。
あの時とは、状況も立場も違う。
万一があれば、おそらく薬を使ってでも堕胎させてしまうだろう。善逸は二の句が継げなかった。
街へ向けて歩き出す。
「あ」
「光希?どした?」
「近いな、と思って 」
「ん?」
「宿屋……」
「ああ」
自分達が育った宿屋が近くにあると思い至った。
思い出の場所ではある。
だが、いい思い出ばかりではない。
半ば逃げ出すようにそこを飛び出した二人。店側にも相当迷惑をかけただろうし、それきり行ってない。
「いいよ、あそこは。違う宿屋に泊まろうぜ」
「いや、顔を出そう。いい機会だ。侘び入れとこう」
善逸は眉をひそめる。
これも死支度か?
こいつは変に義理堅い。育ててもらった恩があるのだろう。
「お前、大丈夫なのかよ」
「別に、平気だよ」
「………」
「本当だって。俺達、離れでしか寝たことないもんな。一番いい部屋泊まろうぜ。えっと…胡蝶蘭の間とか。お客として行って、威張ってやろうぜ。はは」
「……空いてるかな。胡蝶蘭の間」
「利用率は低かったろ。高いから。広くて掃除が大変だったな」
「……行くか」
「うん」
二人は育った場所である、宿屋「藤袴」を目指した。