第42章 覚悟
光希は頭を下げたまま、顔を上げない。
「光希」
「……はい」
「前に共闘したときより、格段に強くなった」
「ありがとうございます」
「よく鍛錬したな」
悲鳴嶼は無骨な手で光希の頭を撫でる。
「……俺、もっと強くなります」
「ああ。鬼舞辻は私より強いぞ」
「はい」
「お前は強い。だから、……泣くな」
「悔しい……悔しいです……強くなりたい、もっと、もっと…あなたみたいに……っ」
一本取ったのに悔し泣きする光希。
宇髄は稽古場に転がる小さな物体を拾う。
……釦? さっき投げたのはこれか
宇髄も何を投げたのか不思議に思っていた。手には何も持っていなかったのに、と。
……あの跳躍の時に、一瞬で引きちぎったのか
悲鳴嶼の前で涙を流す光希の隊服は、釦が一つなくなっている。
「やるじゃねえか。これが、金色の釦に変わる資格、お前にはあるぜ。まあ、金色なのかはわからねえがな。柱じゃねえし」
宇髄が光希に釦を渡す。
「釦だったのか」
「小細工を、すみません」
「いや、構わない。冨岡から聞いている。戦闘中、小細工を仕掛けるのが大好きだと。何かしてくるとは思っていた」
「な……っ!情報を漏らすとは。義勇さんめ……」
「お?冨岡を粛清するのか?手伝うぜ!」
「よし、天元さん、策を練ろう」
光希は涙をぐいっと拭いて笑う。
「悲鳴嶼さん、また稽古してください。お忙しい所ありがとうございました」
「何時でも相手をしてやる。私の鍛錬にもなるからな」
「優しいなぁ……悲鳴嶼さん。滅多に泣かない俺が、思わず泣いちゃったよ。恥ずかし。なんだか、お父さんみたい」
「……私はそんな歳ではない」
「わかってますよ」
「だが、甘えたいなら甘えればいい」
「はい。限界が来たら、手ぬぐい持ってこっそりお邪魔します」
光希はまだ少し赤い目をして、首を傾けて照れくさそうに微笑む。
「天元さん、行こ」
「おう」
光希は悲鳴嶼にもう一度お礼を言って、稽古場を後にした。