第42章 覚悟
光希は口元に手を当てて考える。
「刀鍛冶の里の襲撃か。こりゃ、何やらいろいろ絡んでいそうだな。まあ、悲鳴嶼さんから詳細は聞きます。皆さん情報は共有してますよね」
「会議で全て話している」
「わかりました。知らないのが俺だけなら、全体での話し合いはもう必要ありません」
光希は懐から筆記具を出して何やら書き物をする。
「誰かから全体での共有事項がなければ、解散としますが問題ありませんか」
「大丈夫だ」
「では、俺から、皆さんにお願いがあります」
「何だ」
「これから鬼舞辻との戦いまでの間に、皆さん、死支度をしてください」
「死支度……」
「ええ。思い残すことのないよう、よく考えて念入りにお願いします」
にこりと笑う光希。
「とりあえず、指令を渡します。確実にやってくださいね。命令です」
「義勇さんと、胡蝶さんはこれ」
光希は先程書いた紙を義勇に渡す。
「……?」
義勇は表情を変えることなく書かれた指令を読み、すっとしのぶに渡す。
『冨岡、胡蝶。屋敷内の空き部屋に二人で入り、一刻の間出ることを禁ず。途中での沈黙も禁止とする』
読んだ瞬間、口元を引つらせるしのぶ。
「了解した」
「はぁ……わかりました」
「実弥さんは、これ」
不死川は心底嫌そうな顔をして紙を受け取る。
『不死川玄弥に会いに行け』
「ふざけんな!」
「ふざけてません。物凄く本気です」
「誰がやるかァ、こんなこと!」
「やれ。命令だ」
光希が不死川を見つめる。
「話せ、とは書いてないはずだ。見てこればいいんだ」
「チッ……」
「良いですか、皆さん。死支度は生きるための支度です。思い残すことがない方が、思い切り刀を振れる。敵にあと半歩、近付くことが出来るんだ。その半歩が生死を分ける」
光希は落ち着いて語りかける。
「生き残る為に死支度をしてください。心にしこりを残したまま戦場に来ることなきよう、どうかお願いします」
光希は頭を下げた。
「……私たちは、とんでもない隊士を上に立ててしまったのかもしれんな」
「悲鳴嶼さん、今、気付きましたか。俺はいつでもクビになりますからね」
光希は顔を上げて、へへへと笑った。