• テキストサイズ

雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第41章 じいちゃん


出発前、光希は慈悟郎のところへ行く。


「持って行け」

慈悟郎は水色の刀を、光希に渡す。


「では、お借りします」
「借りる?」
「戦いが終わったら、返しに参ります」
「承知した。折れててもいい。返しに来い」
「はっ」

光希は法子の刀を、受け取る。


「代わりと言ってはなんですが……」

光希は差していた自分の刀を、腰から外して手に持つ。


「こちらをお渡ししてもよろしいでしょうか。私が入隊して以来、ずっと使ってきた刀です。私や善逸、仲間たちを守ってくれた刀です」

「いいのか?」
「はい。もう、使うことはないでしょうから。一般隊士用の刀なので、この刀には及びもつきませんが」
「いや……、汗と涙がしみこんだ良い刀じゃ。手放したくないじゃろうに……」
「大切だからこそ、あなたに持っていていただきたい」

「わかった。有り難く受け取っておこう」
「ありがとうございます」


光希は刀を、慈悟郎に渡す。


……今まで、ありがとうな


心で静かにお礼を言う。



紫紺の拵(こしらえ)の刀を腰に差し、師範の形見を背に背負う。


「光希ー?準備できた?」
「ああ」

光希の本を背負った善逸が顔を出す。


「じゃあ、じいちゃん、行ってくるね」
「しっかり頑張れ」
「うん。また来るから」
「ああ」


善逸は慈悟郎をぎゅっと抱きしめる。


「じいちゃん……ありがとう。今まで、ずっと」
「………本当にお前は甘ったれじゃ」
「ごめんなさい」


慈悟郎も善逸を抱きしめる。


「いいか。お前は強い」
「はい」
「誰よりも速い、閃光となれ」
「はい」

「さあ、行ってこい」
「いってまいります。……師範」


善逸は深く頭を下げた。
光希も隣で頭を下げる。


「笑え、善逸」


隣で頭を下げる光希から、微かな声が聞こえる。



善逸は溢れる涙をぐっと拭って、笑顔を作って顔を上げる。

「鬼、倒してくるよ!」
「いってまいります、慈悟郎様」


二人は家を出る。

見送る慈悟郎に、光希が手を振る。
善逸は涙が止まらなくて、振り向くことができなかった。涙と鼻水が、盛大に吹き出していた。


慈悟郎の温かい音を聞きながら山を下った。


/ 1083ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp