第41章 じいちゃん
善逸は立ち上がって部屋を出ていく。
準備をしにいくのだろうと思い、二人は声をかけない。
「慈悟郎様、私からもお願いがございます」
「……なんじゃ」
「この度、ここで両師範の前で仮祝言をあげることに異論はございません。しかし、その真意を考えると……とてつもない不安にかられます。このように急ぎで設けてきたのは、何故なのだろう、と」
「考え過ぎじゃ。ただ単に、あやつがお主に捨てられる確率を下げておこうと思っただけじゃ。仮祝言がどれほどの効果になるかはわからぬがな。ははは」
「……このまま居なくならないでください。お願いします。いつか行われる我々の正式な祝言の日も、必ずご参列ください」
「ああ。約束しよう」
「……違和感しかないですね」
光希は苦笑いをする。
「師範の刀……」
光希は水色の鞘を、そっと撫でる。
「法子にも、見せてやろうと思ってな」
「はい。ありがとうございます、慈悟郎様」
「ね、師範。仮祝言だってさ。どう思う?まだ未熟者のくせにって思ってますか?
文句なら慈悟郎様にお願いしますね」
「法子からの文句は長くて大変だから遠慮したいところじゃ」
「完璧な理論武装してくるから、こちらからは何も言えなくなって黙るしかないですもんね。黙ったら黙ったで口がないのかって怒られる」
「儂も全く同じじゃ」
「いえいえ。あなたは、あなただけは師範からの愛の言葉を聞いているはずです。この世でただ一人、あなただけが」
「そうじゃのう……誇りに思う」
「ええ。まあ……それも戦略だったかもしれませんが。愛の言葉は相手を攻略するにあたり、かなり有効的に使えますからね。あはは」
「……聞かなかったことにしよう」
「そろそろ戻ってきますかね」
「そうじゃな。阿呆坊主が迷惑をかけるな」
二人が呟いたころ、足音が近付いてきた。