第41章 じいちゃん
「どうした?光希、何か緊張してる?」
善逸が首を傾げる。
「いや……」
光希は慈悟郎を見る。隣の座布団には、桑島法子の遺品である刀が置かれている。
「違和感……感じたか」
「ええ」
「流石じゃな」
この短いやりとりを、不思議そうに見つめる善逸。
「二人とも、儂の願いを聞いてはくれぬか」
慈悟郎が切り出した。
頼み、ではなく、願い、と言ってきたことで、光希の違和感は確信に変わる。
「願い?」
「儂と法子の前で、仮祝言をあげてくれぬか」
「仮…祝言?……祝言っ?!え、じいちゃん、何言ってんの!!」
「無理にとは言わぬ」
「え、でもそんな……俺たちまだ子どもだし、仮とはいえ祝言をあげるには……」
善逸は、顔を赤くしておろおろとしている。
その隣で光希は全く驚くことなく、慈悟郎を見つめる。
「……私は構いませんよ。慈悟郎様、善逸…様」
光希が静かに話し始める。
「!……っ、光希!」
「善逸様は何かお嫌ですか?私と仮祝言をあげることで困ることがございますか?」
「様って……、ひえぇ…、い、いや、困らないけどさ。こんな急に……」
「急…ですか?」
「何でお前、へっちゃらなんだよ。女子の方がこういうの大事にすんじゃないのかよ。いいのかよ、こんなに急に決まってよ」
「先程……、気付いた時に、直ぐに覚悟いたしましたので。お互いの親同然の方に見守られて挙げられるのなら、この上ない喜びでございます」
「光希、儂の我儘を聞き入れてもらってかたじけない」
「滅相もございません。このような場を作っていただき、感謝申し上げます」
光希は深々とお辞儀をする。
「ちょっと、ちょっと待ってよ!二人で進めないでよお!俺が置いてきぼりになってるよ?ねえ!心の準備が追いつかないよお!」
善逸が騒ぐ。
それに少し苛つく光希。
「……そんなら、とっとと準備しろよ。今すぐだ。師範からの『願い』だぞ。何を迷う」
小さくドスの効いた声で光希が囁く。
とてもじゃないがこれから仮祝言をあげる新婦のものとは思えないその声に、「は、はい……」と言って善逸は冷汗をたらす。