第41章 じいちゃん
「お主ら、今日は泊まっていくか」
慈悟郎が二人に聞いた。
「じいちゃんがいいなら泊まる!」
「ご迷惑ではありませんか」
「儂は構わん」
「じゃ、泊まってく!いいよね、光希」
「慈悟郎様がいいのなら、いいよ」
「やったぁ!ね、じいちゃん、晩ご飯俺が作るよ。食材適当に使っていい?」
「ああ、頼む。好きに使え」
「ありがとう!」
善逸は台所へ走っていった。
光希は空になった慈悟郎の湯呑に茶器からお茶を注ぐ。
「……ここからは少し、私の独り言を喋っていいですか?独り言なので、聞き流してくれれば結構です」
光希は一人称を変えて、静かな声で話し始める。
「……?」
「私は、慈悟郎様と師範は親子だと思っておりました。師範からはご親戚だと伺っております。ですが…、違うのですね」
「………」
「私は、あなたと師範は夫婦だと思います」
「……何故、そう思った」
「今日、あなたが一度だけ、『桑島法子』と呼んだからです。娘や親戚なら名字は呼ばない気がして。ただの違和感です」
「……たまたまじゃ」
「かも、しれません」
「証拠としては、弱い」
「承知しています。ではもう一つの違和感。
あなたの座布団の位置。今は真ん中ですが、あなたから見て右側がほんの少し……畳の色が違う。ほら、そこ。
つまり、いつもは右側にずれて置かれているのでしょう。師範が遺骨になってここに戻って来てから、ずっとそうしてるのですね。師範の座る場所を開けてくれているのでしょ?」
「……お主は法子にそっくりだな」
「褒めすぎですよ。師範が違和感こそ最大の手がかりだといつも仰っていましたので、見落とさないように気をつけているだけです」
光希は緩やかに笑った。
慈悟郎も、ふっと気を緩めて茶をすする。