第41章 じいちゃん
「光希よ。本当に善逸でいいのか」
「ちょっとじいちゃん!何聞いてんの!止めてよ!!やっぱやだとか言われちゃったらどーすんのっ!」
「言わないって、そんな事。…タブン」
「ほらね!ほらね!タブンがついちゃったじゃない!やだぁ!」
善逸が髪を逆立てて叫ぶ。
「あはは。慈悟郎様、ご安心ください。私は善逸を心から愛しております。善逸じゃないと駄目なんですよ。だから、いいのです」
「光希……」
光希は微笑みながら迷いなく慈悟郎に答え、善逸が頬を染める。
「しかし、こいつはふらふらと他の女にうつつを抜かしたりするだろう」
「じ、じいちゃんっ!」
「ええ……それはもう。しょっちゅうです」
「光希……」
「はぁ……困ったもんじゃ。そこは儂も更正出来なんだ……」
「仕方ありません。諦めております」
「な、なんだよ、二人して……」
「何かやらかしたら、ぶん殴ってやってくれ」
「はい。その時は慈悟郎様からもお願いします」
「……心得た。性根を叩き直してやるわい」
慈悟郎はそう言って笑う。
その笑顔の中に、少し悲しみの音がした。
「じいちゃん……?」
「ん?なんじゃ」
「……ううん、なんでもないよ」
善逸は少し不安に思ったが、振り払うように笑う。
「いや、しかし、めでたい。今日は嬉しい日じゃ……」
「ははは、じいちゃん泣いてら」
「泣いとらんわ!」
「なんで?泣いてよ、じいちゃん。可愛い弟子が久し振りに帰ってきて、婚約だよ?泣く要素満載じゃん」
「泣かんわ!ふん!」
慈悟郎の目に溜まっていた涙が、強がりの叫びと共に消えてゆく。
「光希、善逸をよろしく頼む」
「承りました」
「違うよお、じいちゃん!俺が光希をよろしくすんだよお!」
「はいはい。末永くよろしくお願い申し上げます。かしこ。」
「おいこら、馬鹿にしてるだろっ!俺のことっ!」
「馬鹿なのだから仕方ないだろう」
「じいちゃんまでっ!泣くよ?俺」
騒ぐ善逸を横目に、慈悟郎と光希は笑っている。
―――こやつの相手として、光希以上の女子はおるまい。良かったな、善逸
慈悟郎の目に、密かに涙が光る。
それに気付いた光希は善逸に話しかけ、さりげなく善逸の目を慈悟郎から逸らせた。