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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第40章 師範


「あの時のように、どうか今一度、師範の力をお貸しください」


光希は畳に付くくらい頭を下げて断りをいれ、紫紺の刀に手を伸ばす。


鞘を下から両手で支えて、丁寧に刀置きから持ち上げる。


―――何だろう、手に馴染む感じがする



自分の手元にきた刀を見る。
ドクンドクンと、鼓動がうるさい。

目を閉じて、そっと胸に抱きしめる。



「……師範、一緒に行きましょう。刀を、遺してくれて、ありがとうございます」



善逸が光希ごと刀を抱きしめる。


「桑島さん。どうか、光希をお守りください。お願い申し上げます」




光希は、鍔元の紙縒をそのままに、新しい刀を斜めがけにして背に背負った。


「抜いてみないの?」
「後でな」
「何色になるんだろうな。前と同じ色になるのかな」
「さあな……予想して賭けるか?」

笑いながら出発の準備をする。

風呂敷に包んだ本は、善逸が背負ってくれた。


「重くない?ごめんね」
「なんのなんの」
「ありがとう」
「おうよ」


玄関で草履を履いた後、光希は屋敷の中に向かって声をかける。


「師範!行ってまいります。桑島法子の名に恥じぬ戦いをしてまいります」


強く叫んで、一礼した。
善逸も隣で頭を下げる。


玄関を出て庭を歩いて門をくぐる。





『いってらっしゃい』



家を出て歩き出したとき、ふと、後ろから優しい声が聞こえた。


それは、聞き慣れた桑島の声。

はっと息を飲み、目を見開く光希。

思わず足を止めそうになるが、歯を食いしばって前へ進む。



「何か…聞こえたのか?」
「……うん。聞こえたよ」


振り返らずに、前へ。


「会いに来て……よかった」
「そうだな」


後ろに未来はない。
どんなに辛くても、……前へ進め。



光希の目から涙が溢れた。
善逸の手がその涙を拭い、光希の頭を撫でる。



「屋敷出てるから、これはお咎めなしだろ。頑張ったな、光希」
「……うんっ」



山を歩く光希の背中で、紫紺の刀が揺れていた。

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