第40章 師範
「さて、そろそろ寝るか」
光希が外を見ながら言う。
二人は書庫に移動する。
光希は羽織と上着を脱ぎ、上着は畳んで頭の下にいれ、ころんと寝転がる。
身体の上にふわりと羽織りをかける。
「眠い……」
「沢山走って、吐いて、頭使ったもんな」
「うん」
「俺も……、ここで寝ていいの?」
「もちろん」
善逸も同じように、光希の隣に少し距離をとって寝転がる。
「明日は慈悟朗様の家だね。ここからあまり遠くないはず。山下りて近くまで行けば善逸がわかるよね」
「ああ。じいちゃん居るかな?」
「どうだろうな。連絡もせずに急に行くから、わかんないね」
善逸が光希に向けて手を伸ばす。
光希も手を伸ばして、指を絡める。
「じいちゃんの所へ行ったら、次は光希ん家だな」
「うん、まあ……俺の家は、また改めて。そんなに遠くなかったけどな」
「戦いの前には行きたいだろ」
「そうだね」
光希は触れている善逸の指を、きゅっと握る。
「……どうした?」
「師範はね……刀鍛冶の里に、俺の刀を作りに行ってたみたいなんだ」
光希は善逸の手を握ったまま、呟くように話し始める。
「俺が選別に行く日に、刀鍛冶の鉄谷さんって人が刀を持ってきたんだ。『桑島さんからの依頼で、長が作った刀です』ってな」
「『あなたが柱になったとき用の刀だそうです』って言うんだよ。ぶったまげるだろ?まだ選別も通ってないのに、なにそれって。ははは」
「師範は、なんで俺の刀なんか作りに行ったんだろ……。柱になるかもわからないのに……」
光希は天井を見ながらぼんやりと喋る。
「お前が、凄い剣士になるってわかってたんだろうな。で、その時、自分は側にいないかもしれない。だから先手を打って作ったんじゃないのか?」
「側にいればいいじゃん。柱になったら一緒に喜んでくれたらいいじゃん。褒めてくれたらいいじゃん。なんで刀だけなの」
「光希……」
「先読みばっかしてさ。なんなんだよ!」
光希はぐっと眉をよせる。
「……師範は、俺のせいで死んだのかな」
「違うよ。違う」
「刀なんて要らないよ。側にいて欲しかったよ」
光希は善逸の手をぎゅっと握る。