第40章 師範
「……善逸の存在も、予測してたのかもしれないな」
「俺?」
「お前が居なきゃ解けなかった。わざわざ俺の苦手な暗号式にしてる。本当に意地悪だよ。協力者の存在を予感してたかも」
「俺の当てずっぽうが功を奏したね」
「はは。少しズルして解いた気もするけど……、どんな手を使ってでもやれってのが師範の教えだから、それはいいや」
光希は、遺書と地図を並べて畳の上に置く。
「さて。俺はそう予測するけど、どうなんですか?師範……」
指で遺書を触る。
「ねえ。正解かどうか、教えてくださいよ……」
返事は無く、部屋は静かである。
「………ほうらね。遺書なんかで、こんなことするから。俺を残して、早く死んじゃうから」
光希の目に涙はない。が、口をきゅっと閉じて、悲しみの音をさせる。
外した引き出しを、丁寧に机に戻す。
遺書と地図を手に持って立ち上がり、じっと桑島の机を見つめた。
善逸がそっと手を伸ばして光希の頭を撫でた。
「正解だよ、全部。よく解いたな。偉いぞ。凄いな」
「……ふふ、代弁してくれてんの?」
「きっと、桑島さんもそう言ったよ」
「そうだね。ありがと」
光希が暗号を解くと、桑島は必ず褒めてくれた。
善逸に頭を撫でられながら、それを思い出す。
「ありがとう、善逸。一緒に来てくれて、一緒に探してくれて、……ありがとうございました」
光希は善逸に深々と頭を下げた。
「俺は、お前のためならなんでもするから。お礼なんて要らないよ」
善逸は光希の頭を上げさせて、軽く身体を寄せる。励ますように、背中をポンポンと叩く。
「家に行くとき、必ず俺を連れてってね」
「……暗号はないよ?」
「わかんねえぞ?お前の両親だからな。きっと賢いだろ。何かしかけてくるかも」
「やめて、もうしばらく解読はやりたくないよ」
目を見合わせて、ふふっと笑った。