第40章 師範
「違うな。何だ?」「いや、待てよ」「あ、もしかして」「むずっ!師範、これ難しすぎるっ!相変わらずえぐいなぁ」「だー!わかんねっ!くそ、負けるかぁっ!」
光希は色んな言葉を発しながら、書いては消し書いては消しを繰り返している。明らかに苦戦している。
善逸は別室には行かずに、そんな彼女の様子を見ていた。
善逸はふと、光希と桑島が暗号を通して会話をしている気がした。
もしかしたら桑島も同じようにこの部屋で、ぶつぶつと呟く光希を見ているのではないか。
自分の出した暗号が解けずに悔しがっている弟子を見て、笑っているのではないか……
そう思った。
「難しい……」
ばたりと文机に倒れ込む光希。
「だいたいさ、遺書で暗号ってどうなのよ。やるか?普通。答え合わせも出来ねえじゃん。降参も出来ねえし」
口を尖らせて、文句を言い始める。
「光希なら解けるって信じてのことだろ」
善逸が笑いかける。
文机の隣に座り、紙を覗き込む。
「何処まで解けたの?」
「三つの答えが隠されてると思うんだ。五十音で『記憶』、イロハで『故郷』。暗号理論を使うのが、部分的にしかわからない……」
「暗号理論……?俺はまずそれがわからない」
「文字数まではなんとか行けたんだけどな。『〇〇エ、〇〇ダシ、弐』
難しい。いくつか計算式を当てはめてるんだけど、どっちも前二文字が理論にはまらないんだ。うーん……」
「〇〇エ…、〇〇ダシ…か。揚げ出し、先出し、後出し……、色々あるな」
「はは、あてずっぽうか。善逸らしいな」
「突き出し、押し出し、引き出し……、」
「……引き出し?」
「ん?」
「それだ!!突くと引くで対になる!『ツク』エ、『ヒキ』ダシ!行けるかも!」
光希はガバッと机から身体を起こす。
「おお!」
「ちょ、待て!確認してみる。いけるか?えっと…ツ、ク…だから……」
光希はまた鉛筆を持ち、いくつかの本と照らし合わせながら合っているかの確認を始める。
「……いける!はまった!『机、引き出し、弐』だ。間違いない!凄いぞ、善逸!」
「やった!」
「ははっ、まじかよ!俺があんだけ考えたの何だったの。善逸、お前天才だな」
光希が全力の笑顔を見せた。
善逸も歯を見せて笑う。