第40章 師範
光希は善逸の腕から離れ、遺書を受け取る。
文字が視界に入ると、目をぐっと細める。やはり、辛い。辛すぎる。
大好きな人からの、自分に向けられた最後の文だ。
見ていると胃が締め付けられる。
背中を善逸に支えてもらいながら、光希は久方ぶりに改めて手紙を読む。
「……ん?」
突然光希は眉をひそめる。
「光希?どうした?」
善逸が背中から聞く。
「この文字……、もしかして……」
光希は細めていた目を開く。
「光希?」
「一、二、三……、切って、ここにかける……」
手紙を凝視しながら指折り数えて、ぶつぶつと呟き出す光希。
「キ、……オ、……カキク、ク…キオク。『記憶』か!善逸、これ、暗号になってるぞ」
「えっ?な、なんて書いてあるんだ?」
「わかんない。解いてみる」
光希は遺書を持って書庫へ移動する。
「前読んだときは全く気付かなかった。……気が動転してたからな。落ち着いて、ちゃんと見ないと気付かないようになってる」
「俺も、今読んだけど、そんなの全くわからないけど。どこで暗号だってわかった?」
「この字、変だろ。これは王羲之の特徴で普通は……ってわかんねえよな」
「わからん」
「とりあえず、解いてみる。時間かかるかも。師範の暗号って、とんでもなく難解なんだ。いろんな部屋見てていいからゆっくりしてて」
光希は筆記具を取り出して、書庫の文机で解読を始める。かなり難しい暗号のようで、本棚からも沢山本を出してきて調べている。
たまに立ち上がって本棚を前に思考したり、部屋の中を歩いたりしながら、唸っている。
メモ用の紙は真っ黒に埋まっている。