第40章 師範
「よし、こんなもんかな」
光希は十五冊くらいの本を引っ張り出し、風呂敷に包む。
「あとは……」
「光希、今日はここに泊まろう」
「え?」
「じいちゃんがやってんのか知らないけど、案外綺麗にされてんだ。今から山を下りても、夜に俺たちみたいな子どもが宿屋に来たら不審がられるだろ」
「確かに。でも……」
「少し掃除すれば寝られる。布団は使えないとしても、畳の上で寝られれば十分だ。野営に比べればな」
光希は悩む。
善逸を巻き込んでしまうことに抵抗があるようだ。
「今夜一晩、ゆっくりしていこうぜ。俺のことは気にすんな」
「善逸……」
「会える時に会っておけっつったのはお前だ。ここには桑島さんが居るだろ。想い出として、あっちこっちにな」
「……ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて、そうさせてもらおうかな」
「おう。甘えとけ」
「……善逸。お前、本当にいい男だな。漢文読めないけどな」
光希は照れくさそうに笑った。
善逸は書庫の床を箒で軽く掃き、光希は雑巾をかける。
ある程度綺麗になった部屋で、蕎麦屋で買っておいたおにぎりを食べる善逸。
光希は要らないと言ったが、善逸は彼女に何口かかじらせた。