第40章 師範
「お前、これ全部読んだのか?」
「ああ、読んだよ」
善逸は一冊手に取ってみる。
開いてみるが、全く読めない。
「それ漢文だからな、読めないだろ」
光希はそんな善逸を笑いながら見ている。
「そうだな……、この辺ならどうだ?」
光希から一冊渡されるが、仮名混じりの文体ではあるものの、意味がさっぱりわからない。
「無理。ちんぷんかんぷんだ」
「ははは」
「お前、どうやって読めるようになったんだ?勉強したのか?」
「んー、読みたかったから頑張って読んだ。それだけ。辞書もあるしな。
それでもわからないところは師範に教えてもらって、そうしてるうちに読めるようになった」
「そうか……凄えな」
「読書百遍意自ずから通ず(どくしょひゃっぺんいおのずからつうず)、だよ」
「……わからん」
「魏志」
「何それ」
「……………」
「お前今、俺のこと阿呆だと思ったろ!」
「はは、思ってない思ってない。これは興味があるかないだけだからな。読んでみれば面白いぞ。あれな」
光希は本棚の上の方を指す。
そのまま微笑みを浮かべて、懐かしそうな顔で本棚に並ぶ本を見つめる。
本当は読みたいのだろう。
軍略に関係ない本も。
ここで過ごした日々を想いながら。
でも、そんな時間はない。