第40章 師範
「凄く強い剣士だったのにな……悔しいな。上弦だったのかな。なんで、死んじゃったんだろうな……帰ってくるって、言ったのにな……」
「光希……」
「悔しいな…悔しい……」
「……そうだな」
光希は道を横に逸れる。
そこには湧き水が出ていて、水筒に水をくむ。
「あ」
声を上げた光希の目線の先には小さな白い花。
「一輪草……」
「いちりんそう?」
「花言葉は、追憶。師範の好きな花なんだ」
光希は花に手を伸ばす。
善逸は、摘むのかなと思ったが、彼女はそのまま手を引く。
スッと立ち上がって前を見る。
「あと少しだよ」
「ああ」
また、進み始めた。
空が夕焼けに染まり始めた頃、山の中腹部に家が見えた。立派な家である。
「ここか?」
「……そう」
答えた瞬間、光希が口を抑えてうずくまる。
「ぐっ……」
「光希っ?!」
光希は茂みに飛び込んで、吐く。
「はぁ…はぁ……、うっ、……」
「光希……」
善逸はもう、大丈夫か、と聞かない。
大丈夫じゃないことは明白である。
優しく背中を擦る。
「ごめん、ありがとう」
「いや、気にするな」
光希は、ふぅー…と大きくひと呼吸した。
「よし」
立ち上がって、家に向かう。
門の前で汚れを払い、身だしなみを正す。
深くお辞儀をして、
「師範!只今戻りました!」と言った。
凛とした声だった。
善逸も隣でお辞儀をする。