第40章 師範
「おえっ……げほっ…ぐっ……」
「大丈夫か……」
林の中、光希は盛大に嘔吐していた。
善逸が心配しながら背中を擦る。
「……っ、はぁ、はぁ……大丈夫。ごめん」
水筒の水で口をゆすぎ、手拭いで乱暴に拭いて立ち上がる。
「行くぞ」
「ちょっと待て、休憩だ!」
「……いや、夕方までには着きたい。急ごう」
「でも……」
「大丈夫だ」
善逸の制止を聞かずに走り出す光希。
慌てて付いていく善逸。
……朝、俺が無理をさせたから、じゃないなこれは
隣を走る光希を見る。
口元を抑えて、まだ気持ち悪そうにしている。
言っても聞かないのはわかっているので、とにかくひたすら隣を走る。彼女が倒れたらすぐに助けられるように。
その後、光希は吐くことなく走り続け、二人は林を抜けた。
「はぁ、はぁ、えっと……」
光希はきょろきょろしながら道を探す。
「……ぜぇ、ぜぇ、……こっちだ。」
歩き出す光希に付いていく。
「はぁはぁ、疲れた……桑島さん家で休ませてもらおうな。きっつ……」
「……はぁ、はぁ、悪い。休むことは、できない」
「え?」
「家が、そんな状態じゃ、ないんだ……」
善逸は、首を傾げる。
片付けが下手な人なのかなと、思う。
「もう長い間、放置されてる」
「え、それって……」
「師範は……、桑島法子は……とっくにこの世にいないよ」
光希が悲しそうな顔でそう言った。