第37章 心の傷
「もしかして、まだ何か言いたいことあるか?」
「え?」
「俺は、言い切ったらすっきりして涙止まる」
「言いたいこと……」
「あるなら言ってごらん」
「うーん……」
「まとまってなくていいよ」
今度は光希が歩きながら考える。
そして、ああそうか、と思い至る。
「……俺は、お前に謝りたかったんだ」
足は止めずに、涙を流しながら光希が言う。
「お前と初めて会ったとき、もっと優しくしてやれば良かったって」
「ん?冷たくされた覚えはないよ?おにぎりくれたよな?」
「うん……でもさ。俺、親の記憶無かったし。お前の気持ちがわからなくて、なんか苛ついた。べそべそ泣いて鬱陶しい奴だって思ってた」
「あの時、俺は捨てられほやほやだったからな。泣きまくって迷惑かけてごめんな」
「辛かったねって言えばよかったって、少し経ってから……やっと思って、後悔してたんだ。ああ、そうだ、あん時だ。お前が泣きすぎて川に落ちた時」
「ああ、あったな」
「大人に引き上げてもらって……俺が呼んでも呼んでもお前ぐったりして起きなくてさ。死ぬのかもって、思った。その時、頭がこう……キーンと冷えてく思いがしてな。どうしてあの日……、お前が一番辛かったあの日に『俺が兄弟になってやる』『俺も寂しいんだ』『仲良くしよう』って、言ってあげなかったんだ、って思ったんだ……」
頭が働いてきたのか、一気に喋る光希。
「ごめんな、善逸。優しく出来なくて」
ずっと足元を見ていた光希が、善逸を見て謝罪をする。
善逸は少し笑っていた。
「なんだ、お前、そんなこと気にしてたのか。子どもの頃から賢い奴だと思ってたけど、案外そうでもないのな」
「……そうだよ」
「そんな言葉、ずっと聞こえてたよ」
「善逸……」
「俺、耳いいもん」
「……そっか」
「そうよー」
「ちなみに……、溺れるお前を見たせいで、俺はいまだに泳げないよ」
「はは…。やっぱりな」
光希の涙が止まった。
「おお、凄い」
「ほらな。凄いだろ。泣きに関しては俺のほうが上だ。年季が違う」
「……はぐれないよ。俺達は」
「ん?」
「お前の頭、黄色くて見つけやすいから」
「……おう。ちゃんと、迎えに来てくれな」
二人は笑いながら隠れ家に向った。