第37章 心の傷
「俺さ、正直もう……、顔覚えてねえんだ。ほとんど。父ちゃんも、母ちゃんも……。
会っても絶対に気付かねえ。あんなに母ちゃん母ちゃんっつって泣いてたのにな」
光希を抱きしめたまま、善逸が喋る。
「でもさ、少しだけ……感謝してんのよ、俺。……親に」
「感謝……」
「俺を殺す事も出来たのに、しなかった。で、若旦那に……託したのか引き渡したのか売ったのかわかんねえけど、とにかく俺はあの宿屋にいく事ができたんだ」
「善逸……」
「親に……捨てられてなかったら、俺はお前と出会えなかった」
善逸は抱きしめたまま、光希の髪を撫でる。ずっと止まらない光希の涙がまた溢れていく。
捨てられた、と彼がはっきり口にするのは珍しい。どこかで認めたくないという葛藤があったのだろう。
「ほら、だから、……やっぱり俺は大丈夫だよ。辛くても。ね?」
「うん……」
「泣かないで。熱上がるぞ」
「……うん」
「ありがとな」
「……うん…うん」
何も言葉が紡げなくて。
頷くことしか出来なくて。
全然涙も止まらなくて。
とっくに涙が落ち着いてる善逸の前で、光希はぼろぼろと涙を零した。