第37章 心の傷
光希が立ち尽くしていると、善逸がすっと子どもに近付く。
「おい、どした?」
それは、いつも通りの善逸の声だった。
「よっ」と刀を背中から取り出し、かがみこんで子どもを覗き込む。
「……うぇぇん、…か、かあ、ちゃ、が……」
「母ちゃんとはぐれちまったのか?」
「わ、わかんなっ……、ここに、……いろ…って、」
「ここに居ろって?母ちゃんが?」
「う…ん。ひっく、帰って、こないよぅ……」
「いつ居なくなったんだ?」
「ひる、すぎ、……くらい」
善逸は「うーん……」と言いながら、子どもの隣に座る。ようやく見えた善逸の顔は、子どもを心配するものだった。
「他は?母ちゃん何て言ってた?」
「ぜったい……、もどる……って…」
「そうか。なら、戻ってくるよ。母ちゃん」
「うん……。うぅっ……母ちゃぁん……」
「……なあ。お前、男か?」
「うん」
「なら泣くな」
……どの面下げて言うんだ
善逸の様子を見ていた光希が、思わず複雑な心境下で突っ込む。
子どもは目に手を当てて、しくしく泣いていたが、泣くなと言われたので頑張って顔をあげる。
まだぽろぽろと涙が出てくるが、隣に座る善逸を見る。
「兄ちゃん、何で、頭、……黄色いの?」
「ん?これか?」
「そう」
「見つけやすいだろ?大事な人とはぐれちまっても、見つけてもらいやすいように、黄色くしてんだ」
善逸は、はははと笑う。
「おれ、は……黄色くないから、母ちゃんに、見付けて、もらえない、かも……っ、」
「お前は大丈夫だ」
「ううっ……、そんなの、わかんないっ……」
「わかる。お前の気持ちもわかるよ。一緒に待ってやるから。……大丈夫だ」
「……っ、…うわぁぁぁん……」
また泣き始めた子どもを抱き寄せて頭を撫でる善逸。
「光希。……悪い。先に隠…、家に帰っててくれ」
善逸が光希に話しかける。
この時善逸は、初めて光希の表情に気付いた。
眉を寄せて、泣きそうな顔をしている。
その顔は子どもではなく、善逸に向けられていた。
「はは、なんて顔してんだよ」
「だって……」
「俺は大丈夫だよ。何年経ったと思ってんだ」
「……善逸」
善逸は太い眉毛をハの字に下げて、笑ってみせた。