第37章 心の傷
その建物と言っていいかわからない物の側に来たとき、光希の耳にもその弱々しい声が聞こえた。
「……かあ、ちゃ…ん……っ、」
小さな子どもが、泣きながら座っている。
気付いた瞬間、光希は息を呑む。
今も善逸の後ろにいるので、善逸の表情はわからない。いや、見に行くことが出来ない。
手が震える。呼吸を整えようとするが、できない。
声が出ない。
頭が働かない。
善逸、この子を見つけて、どうすんだ。
あの騒がしい街の中で、お前は何故この子の小さな声を聞き取ったんだ。
―――これは、
お前の最大の心の傷だ
この子が、迷子ならいい
でも、違ったら、
………この子は捨て子だ
風が、善逸の黄色い髪と羽織を揺らした。