第36章 準備
二人は空いてきた時間を狙って、喫茶店に入る。
善逸は念願のシベリアを食べて歓声をあげる。
「うんめー!」
「美味しいねぇ」
珈琲は胃に悪いため、善逸はラムネ、光希はジュースを飲んでいる。
「この時間帯、いいね」
「そうだな。落ち着いてる」
目の前で光希が笑う。
今日という日が始まってから既に百回程可愛いなあと思ったが、やっぱり可愛いなあと思う。
先程の悲しげな笑顔が気になるが、気にしてても仕方ないので善逸も切り替えた。
「楽しみだねー。いつ行けるのかなぁ。早く着物、着たいよう」
「炭治郎が帰ってこないとな」
「そうだね。で、当日はここ出たら解散にするから」
「え?」
「当たり前でしょ。二人にしてあげないと」
「な、なるほど」
炭治郎大丈夫かな、と思う。
おろおろする姿が目に浮かぶ。
「その時、善逸が後押しの言葉をかけてあげてね。炭治郎が勇気を出せるように」
「俺が?」
「そう。私じゃ出来ない」
「そっか。なんて言えばいい?」
「それは善逸が考えてあげてよ。私には男の子の気持ちはわからないよ。カナヲには私から声かけるから」
「わかった。考えとく」
「うん。これで計画は完璧だ。ふふふ」
光希は嬉しそうに目の前のパンケーキを食べる。
……甘味じゃなくて飯食えよ
善逸はそう思いながらも、光希が久しぶりに笑顔で物を食べているので何も言わなかった。
「んじゃ、帰るか」
「そうだね」
店を出る二人。
当日の打ち合わせをしながら歩いていると、街の端の方から、とある声がした。
善逸の耳だけがそれを捉えた。
突然目を見開いて、立ち止まる善逸。
当然驚く光希。
「善逸、どうかした?」
善逸は、身体の向きを変えて歩き出す。
光希からは背中なので、彼の表情がわからない。
「善逸、何っ?どうしたのっ?」
慌てて付いていく。
善逸は、何も言わない。
街の脇にある、朽ちた小さい小屋の前で善逸は立ち止まった。
両手は固く拳を握りしめている。