第36章 準備
「いっそのことお昼を早めにして、喫茶店にいって、……夕方には帰らなきゃだから……」
計画を立てている光希を横目でちらりと見る善逸。
いつも男みたいな口調で刀振り回して乱暴にしてるけど、今こうして見ていると、友達の恋愛を応援しているただの女の子である。やや策略家の雰囲気は強いけど。
その一生懸命さに、朝、拗ねて腹を立ててしまったとこをちょっぴり反省する。
「何?どうかした?」
光希が善逸を見る。
「なーんにも」
善逸は固まった背中をぐーっと伸ばす。
「変なの」
そう言って、今度は光希が善逸をじっと見つめる。
「……何?」
「なんにも」
「見んなよ……」
「お返しだよ。ずっと見てたでしょ」
光希は善逸からの視線に気付いていたようで、頬杖をついて、にんまりとしている。
善逸は頬を赤く染めながら、口を尖らせる。
「私は、このままでいいんだけどな」
善逸をまじまじと眺めながら、光希がポツリと呟く。
「え?」
「このままの大きさの善逸がいいな」
「なんで?」
「可愛いもん。大きくならなくていいよ」
「いや、そう言われても……どうだろう」
「頼むから実弥さんみたいにな大きさにならないで」
「あそこまではならないと思うけど」
「……大きい男の人、ちょっと苦手なの。怖い」
光希は少し声のトーンを落とした。
小さい頃の怖かった思い出が影響しているのかと善逸は思った。
剣士として体格に恵まれているとは言い難い自分を、「そのままでいいよ」と言ってもらえてる気がした。
そして、不死川などの大男に対して怯まず立ち向かっていた彼女の中に、少なからず恐怖があったのだと知って切なくなる。
それでも彼女は全く怯むことなく、噛み付いていく。思えばそれは昔からだった。きっとこれからもそうなのだろう。
「……俺、思いの外大きくなっちゃったらごめんね。そしたら、嫌いになる?」
「なるわけないでしょ」
「急にでかくなる訳じゃないからさ。ちょっとずつならわかんないから大丈夫だよね」
「そうだね」
「だからさ、お前を怖がらせないように、こっそり大きくなってくからさ。俺が大人になるまで、ずっと近くにいてよ」
「……うん」
光希は少し悲しそうな顔で笑った。