第36章 準備
赤い顔を隠すように、光希はそのまま善逸の横をすり抜けて店主の所へ行く。
楽しそうに話をしている。
「もう一人分、お願いしたいです。こんな感じで」
「背格好はどんな感じだい」
「背は俺と同じくらいです。俺より、ちょっとごついかな」
「ふむ……」
「この着物の女の子と歩いてていい感じの着物で!」
光希が緑の着物を見せると、店主はまた善逸に着せていく。
仕上がったのは、深めの青い着物にワントーン明るい青の羽織と焦げ茶の袴。そして紅色のシャツを中に着て、襟と袖に差し色として映えるコーディネートだった。
「すっごいお洒落……!炭治郎に似合いそう!」
光希は手を叩いて喜ぶ。
炭治郎の赤い髪と赤いシャツが似合うと確信できる、最良の合わせだった。
青色も、初めて皆が出会ったときの炭治郎の着物の色だ。
「さっきのと一式、全部買います!」
「あと……」そう言って、女物の着物をもち、それに合わせた羽織とかを相談していた。
目をキラキラさせて、店主と話す光希。
喜びの音を奏で続けていて、善逸も心底嬉しくなる。
……幸せだなぁ
しみじみと思う。
おそらくかなりの金額になったと思うが、光希はぽんと支払っている。
自分の知らない甲の給料にゾッとする。
善逸はこっそり刀を背に隠し、羽織を着て光希の所へいく。
「私達、まだ街に居たいんです。これ、預かっててもらえますか?帰りに取りに来ます」
「ああ、いいよ。名前書いとくよ。名前教えてくれ」
「……我妻、です」
「……!」
「我妻光希です」
「はいよ。我妻さんね。俺がいなくてもわかるようにしとくから。羽織は三日後ね」
「はい、お願いします」
「らんでぶー楽しんどいで!」
「ら、らんでぶー……、はい!ではまた後ほど!」
二人は店を出る。
照れくさそうにしている光希。
善逸は光希の手を取る。
「……俺の聞き間違い?」
「あれ、なんか変だった?」
「へへへ。別にっ!変じゃねえよ!」
とぼける光希の手を、善逸は嬉しそうにきゅっと握った。