第36章 準備

緑が基調で、赤い椿があしらわれた着物を手に取る光希。気品があって美しい柄だ。

「どうだろ。これに、橙の帯。派手かな？」
「いや、いいんじゃないか。あ、なあなあ、この帯さ、」
「あ、市松模様入ってる！」
「よくね？」
「最高じゃん！」


カナヲの着物もあっさり決まる。
最早どちらも値段を見ていない。


「さて、お次は男衆」
「男は別に選ぶも何も、黒か紺くらいだろ……え？」

善逸は女物の半分くらいしかスペースのない男物の売り場に行って驚く。

「今……、いろいろ、あんだな」
「そうなのよ、時代は変わってんのよ」


しかし、光希も男物の流行りはよくわからない。


「すみません、この人に合いそうなものを見繕ってもらえますか？あ、袴は履かせてください」

光希は店主に声をかける。
気の良さそうな初老の店主にお願いして、選んでもらう。


善逸はいろいろ着せられて、わたわたしていた。光希はにこにこしながら遠巻きに様子を見ている。


「あの……安いやつでお願いします、本当」
「ははは。兄ちゃん、あんたの恋人、すごい別嬪さんだなぁ。うちのお客でもあそこまでの女性はあんまり居ないぜ」
「あ、はい……ありがとうございます」
「大事にしてやんなよ」
「はい」
「これでどうだ？安くしといてやるよ」
「あ、聞いてきます」

善逸は光希に服を見せに行く。


「シャツは来たままなんだって。俺にはよくわからないよ。……どう、かな？」


善逸はベージュの着物に焦げ茶の羽織、濃紺の袴を履いていた。袖を短くして、シャツを出している。


光希はその姿に驚く。
金髪が異質ではあるが、とてもよく似合っている。

「流石……本職に選んでもらうと、違うね」
「おやおや？照れてるよこの子。なになに、俺が男前過ぎてびっくりしちゃったかな？」


顔を赤くしながらすっと目を反らす光希の顔を、面白がって覗き込む善逸。


「……正直に言ってごらんよ」

店主に聞こえないように耳元で囁く善逸。


「……想像超えの、男前だよ。最高」

ぼそっと呟く光希。
つられて善逸も顔を赤くする。