第36章 準備

「すみません。お店の中、いろいろ見て回りたいので、荷物ここに置かせてください」


光希は店の人に言いながら、一角を指差す。

買う気を示しているので、店主も快諾する。


「善逸、刀下ろすぞ」

側にきた光希がささやく。背中の刀をすっと外し、善逸の羽織と上着を被せて隠す。


楽になった背中を曲げ伸ばしする。


「楽しいなー可愛い服が沢山だ。散財するぞーっ！」

光希は子どものようにはしゃいで、楽しそうに声をあげる。



着物を見て回る。

光希の買い物は非常に効率的で、善逸が今まで付き合ってきた女の子とは全然違っていた。

派手系、美しい系、可愛い系、など、系統ごとにお気に入りを出していき、その中で絞り込む。うだうだと迷わない。


「善逸はどんなのが好き？」
「可愛いやつ。ハイカラなの」
「いいねー、じゃ、このめっちゃハイカラなのどう？」

光希はカラフルで可愛らしい着物を羽織ってみせる。大正浪漫ど真ん中ストレートの、赤を基調にしながら紫や黄色の柄が散りばめられている派手な着物だ。


「どう？」
「めっちゃ可愛い……やべぇわ」

善逸は顔を赤くしている。


「じゃあ、これ」
「早っ！え、高っ！」

値段を見てぶったまげる善逸。

「いいのいいの」と笑う光希。
「派手目の帯と、大人し目の羽織を合わせよっかな……」と考えているその顔は女の子そのもので、善逸は少し安心した。
そしてだらしなく鼻の下をのばした。


「カナヲはさ、おしとやか系がいいよね」
「そうだなぁ」
「袴もありだけど……」
「んー、でも俺らいつも稽古で袴履いてるから、新鮮味がないかもな」
「なるほど！やっぱり着物の方がいいかな」
「俺はね」

「よし、着物でいこう」

カナヲの服を選び始める光希。



「紫や、桃色はやめようかな。よく見てるから」
「で、光希が赤にしたから……」
「緑か、青かな」

「緑でいけば？炭治郎の緑」
「いいね。あ……似合うかな、カナヲ」
「似合わせろ。あいつの緑をカナヲちゃんに」
「どしたの善逸……なんか本気出してきたね」
「楽しくなってきた。ははは」


元来女の子好きの善逸が、なにやら気合いを出したので光希は笑う。