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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第35章 しのぶ


診察室を出た後、光希は反省していた。

……人には人の事情ってもんがあんのに。自分の意見を押し付けて、馬鹿か俺は



そして、自分に触れたしのぶの指を思い出す。
相手を包み込むような慈愛に溢れた手。女らしさとはああいうものなのではないか。

なおかつ強さも兼ね備えていて、美しく凛としている。
義勇でなくとも男はみんなイチコロだろう。



自分の手を見る。
自分はこの手で、善逸をあれほど優しく包み込んでやれているだろうか。


……ぶっ叩いてる方が、多くねえか?


冷汗を流す。



剣士としてはまあまあでも、女としては間違いなく劣等生だろう。

今までは全く気にならなかったが、ふと、このままでいいのだろうか、と思う。




考え事をしていたら無意識に稽古場に足が向いていた。
覗いてみると男子二人が鍛錬をしていた。

竹刀を合わせている。


光希に気付いた善逸が、隙を見せ、伊之助に吹っ飛ばされる。

「はぁ、はぁ……くそっ、あんのやろっ、」

ひっくり返った善逸に近付き、覗き込む。


「隙見せるからだ」
「お前が来たから、つい」
「俺のせいかよっ!何でだよ?」
「好きだからだよ……」

顔を赤くしてそっぽを向く善逸。


「何、洒落たこと言ってんだ馬鹿」
「うるせー馬鹿」

「何してんだ紋逸!かかってこい!」

「よっしゃあ!剣士交代だ!行くぞ伊之助!」
「行くな!馬鹿!!」


善逸が落とした竹刀を握り、立ち上がる光希を慌てて止める善逸。

笑う光希。よし来い!と叫ぶ伊之助。



……俺は胡蝶さんにはなれない。どんなに望んでも。でも、こいつがこんな俺を好きだと言ってくれるなら、しばらくこのままでもいいのかもしれない


そう思って、その手に竹刀を握った。

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