第32章 師弟
食べ終わった光希は苦い苦い薬を飲む。光希は薬が苦手だった。
涙目になりながら頑張って薬を飲む姿も可愛いなあと思って善逸は見ていた。
「我妻、蝶屋敷に帰っていいぞ」
「え?」
「俺は今夜はここで寝るから。大丈夫だ」
「うっ……」
逆に駄目だ!と言いたいところではあるが、屋敷の主である義勇にそう言われては、帰るしかない。
義勇は善逸をじっと見る。
光希も黙って二人の様子を見る。
「泊めてくれませんか?」
善逸はお願いすることにした。
「何故だ」
「泊まりたいから、です」
「ここは宿屋じゃない」
「ううっ……」
「……終着点から逆算するんだ」
「光希……」
「自分の導きたいところへ相手を誘うんだ」
「……わかんねえよ」
「んじゃ、帰れよ」
冷たく突き放されて、泣きそうになる善逸。
みかねて光希が声をかける。
「義勇さん、すみません。作戦会議させてください」
「いいだろう」
光希は部屋の隅に善逸を連れていき、何やら教えている。善逸は首をひねってばかりだったが、少しすると義勇の前に来た。
「冨岡さん、光希の様子をみてどう思われますか?」
「……随分回復した」
「俺もそう思います。で、おそらく一晩寝れば熱は下がるのではないでしょうか」
「その可能性は高いな」
「だとすると、光希は明日、蝶屋敷に一度戻りたいと申しております。忘れ物があるそうで」
「…………」
「道中、一人で帰らせるのは危険と思います。俺が同行して蝶屋敷へ戻りたいと思います。それなら途中で倒れてもなんとでもなります」
「…………」
「そのためにも、今夜一泊させていただけませんか?」
「……いいだろう。客間を使え」
義勇が許可を出した。
「やった……!」
「喜んでる場合か。穴だらけの策を、かなり容赦してもらったんだぞ」
「光希。忘れ物とは何だ」
「はい。厳密に言うと物ではありません。伊之助に急ぎでどうしても伝えたいことがあるのです。今回の入院中、会うことが出来ずに叶わなかったことです。手紙では駄目で口で伝えたい。蝶屋敷に戻らなければならないのです」
「完璧だ」
「本当ですから」
とりあえず、熱が下がったら明日一度蝶屋敷に戻ることにした。