第32章 師弟
「お前の育手は誰だ」
「桑島様です」
「桑島……?」
善逸が、心当たりのあるその名に声を出す。
「そう、桑島慈悟郎様のご親戚だよ。下の名前も知らない。師範としか呼んでなかったし。慈悟郎様とどんな関係なのかも知らない」
「そうか、光希はじいちゃんに育手を紹介されてたもんな」
「桑島法子か……?」
義勇が呟く。
「あ、確かそうです!同じ水の呼吸だし、義勇さんもご存知なんですね」
「いや……、柱は皆知っている。彼女は鬼殺隊の元総司令官だ」
「え……!」
今度は光希が驚いて声を上げる。
途端に目を丸くする。
……やばい。これはやばい
「義勇さん。まずいです。これは隠す案件です」
「いや無理だ。お館様は既にご存知だろう」
「通りで!通りでなかなか隊が引き下がらないわけだ。そういうことか……」
遊んでただけだと思っていたのに、がっつり兵法指南を受けていたのだと初めて気付いた光希。
「やっぱり!やっぱり探りをいれてたんだ!俺から裏取りするために聞いてきたんでしょ!義勇さんの嘘つき!」
「いや、知らなかった」
「落ち着け、光希!」
元総司令官から兵法指南を受けていたとあれば、例え入隊一年目の小娘だとしても皆を納得させられる。勿論納得しない者もいるだろうが、箔がつくことは明白だ。
「やばい……やばいぞ。考えろ、考えろ……」
光希はぶつぶつと呟き始める。
「……冨岡さん、本当に知らなかったんですか?」
「ああ。驚いている」
「驚いてる顔じゃないですよ」
「驚いたが……納得もした」
義勇は、もはや周りからの音が聞こえない程思考に没頭している少女を見る。
通りでやたら賢いわけだ。
謎が解けてすっきりした。
「おい、我妻。そいつの思考を止めてやれ。また熱が出るぞ」
「はぁ……、止められますかねぇ。こうなるとこいつ、やっかいですから」
善逸は光希の名を呼びながら、肩を揺らしたり頬をパチパチ叩いてみたりしている。
……今はまだいいかもしれないが、この先、こいつは絶対上へと連れて行かれる。桑島の指南を受けた人間は多くはない
義勇は、善逸に擽られて我を取り戻し「なにすんだっ!」と少年をぶん殴る光希を見つめた。